2020.1.2

【大人の教養・日本美術の時間】大人のたしなみ 「能」ってどう楽しめばいいの?

「能舞台」(鮫島圭代筆)

「能楽」は、700年ほどの歴史がある日本最古の本格的な演劇です。

2001年、ユネスコが「人類の口承及び無形遺産に関する傑作」として、世界中から選出した19種類のひとつに選ばれました。いわば世界遺産の無形文化財版です。世界にファンがいる日本独自の舞台芸能ですから、日本に住んでいるなら楽しまない手はありません。でも「なんだか難しそうで…」と、二の足を踏んでいる方も多いはず。そこで今回のコラムでは、能を楽しむためのポイントをお届けします。

能舞台に出掛けてみよう!

「能楽」は、能と狂言の総称です。そして、能はいわば「ミュージカル」、狂言は「コメディー」です。能は謡や舞を織り交ぜてストーリーを演じる歌舞劇で、繊細な感情を表現します。一方、狂言は面白い掛け合いで笑いを誘う会話劇です。

さて、ここからは、能舞台にに行くことをシミュレーションしてみましょう!

能楽の公演時間は2~3時間ほどで、能と狂言を1作品ずつ、もしくは、能・狂言・能と交互に上演するのが一般的です。演目の組み合わせや順番は「番組」といいます。

鑑賞前に、その日の演目のあらすじをチェックしておきましょう。インターネットや本で調べるか、もしくは会場にパンフレットがあれば購入してもいいですね。

能は、伝統的には野外で行われ、今も多くのお寺や神社の境内に能舞台があります。夜にかがり火をいて上演する「薪能たきぎのう」は、都内では芝の増上寺や明治神宮、新宿御苑などで行われています。そして、明治時代には建物の中に能舞台がすっぽりとおさまった能楽堂が登場しました。今では全国各地に立派な能楽堂がありますね。

能舞台は宮大工のたくみの技により、香りのよいヒノキ材で作られており、すがすがしい空気が漂っています。

能舞台といえば印象的なのは、「老松おいまつ」と呼ばれる大きな松の絵ですよね。 舞台の正面、奥にある羽目板「 鏡板かがみいた」に描かれています。そして本舞台から左側の舞台袖へと「橋掛はしがかり」と呼ばれる廊下がのびています。

大がかりな舞台装置も小道具もなし 想像力で楽しんで

では、どのように舞台が進行するのか、その一例をご紹介しましょう。

演目が始まるまで舞台上は空っぽです。

やがて演奏担当の「囃子方はやしがた」が左手の舞台袖から登場し、橋掛かりを通って舞台の正面奥に並びます。そして「地謡じうたい」が舞台の右側に座ります。地謡は物語を歌で盛り上げる8人ほどの合唱団です。それから「作り物」と呼ばれるシンプルな大道具が運ばれてきます。

能舞台には緞帳どんちょうがないので、これら一連のことが観客の見ている前で進行します。歌舞伎のような大掛かりな舞台装置やリアルな小道具もありません。

能は「省略を美とする芸術」なのです。観客は物語に引き込まれていくうちに、舞台上に海や山など物語の情景が立ち現れてくるように感じます。想像力をフル活用して楽しむのですね。つまり、省略によって生まれた余白が多くを語る――これは、日本画や茶道にも共通する日本の美意識です。

さあ、いよいよ笛の音が響き渡り、お囃子の心地よいリズムとともに舞台が始まります。ここからは難しいことは考えず、謡や舞、能面や装束の美しさに身をゆだねましょう。

ひとつの演目に出演する能楽師(役者や演奏者)は総勢20人ほどです。

役者は役割ごとに、シテ(主役)、ワキ(相手役)、ツレ(シテの関係者)、アイ(説明役)と呼ばれます。

能の演目は200以上あり、登場するのは貴族や武士といった人間だけでなく、神、鬼、幽霊、精霊、妖怪などの場合もあります。

能の主人公はたいてい社会の弱者です。殺された者、病んでいる者、深く傷つけられた者、周辺に排除された者たちが、舞台の上でよみがえり、自分の人生を語ります。能は弱者に寄り添う「鎮魂の芸能」ともいわれます。その一方で、現代のドラマや映画に通じるような現実の世界に生きる人々の物語もあります。

能の動きは、人間のあらゆるしぐさの中から選び出してそぎ落とした、さまざまな「型」(ポーズ)から成り立っています。

基本姿勢は「構え」といい、おへその下に力を入れて少し前かがみに立ちます。歩行は「運び」と呼ばれ、重心がぶれないように、そろりそろりとすり足で進みます。室町時代の日本人の身体の使い方を継承しているといわれ、静かな動きながら実は心拍数がものすごく上がるそうです。

喜びや怒りなどの感情もさまざまな型で表現します。例えば、泣いていることを表す型は「シオリ」といい、指をそろえた手を顔の前にかざして目を隠します。

初心者向けの鑑賞教室も

能楽鑑賞の全体像がつかめたところで、ぜひ実際に能楽堂や薪能に出かけてみましょう。国立能楽堂などでは解説つきの鑑賞教室が行われているので、初心者にオススメですよ。

お稽古事として能楽を楽しむこともできます。謡や舞、囃子方など全国各地に教室があるので気になる方はチェックしてみてください。

そしてお正月らしく、能を描いた絵画のほか、能面や装束が堪能できる、華やかな展覧会に足を運んでみてはいかがでしょう。大倉集古館(東京都港区虎ノ門)では、2020年1月26日(日)まで新春特集展示「能と吉祥 寿―Kotohogi―」が開催中です。

【新春特集展示 能と吉祥「寿―Kotohogi―」】

大倉集古館 2019年12月24日(火)~2020年1月26日(日)

公式サイトはこちら

大倉集古館ホームページ

鮫島圭代

プロフィール

美術ライター、翻訳家、水墨画家

鮫島圭代

学習院大学美学美術史学専攻卒。英国カンバーウェル美術大学留学。美術展の音声ガイド制作に多数携わり、美術品解説および美術展紹介の記事・コラムの執筆、展覧会図録・美術書の翻訳を手がける。また水墨画の個展やパフォーマンスを国内外で行い、都内とオンラインで墨絵教室を主宰。https://www.tamayosamejima.com/

開催概要

日程

2019.12.24〜2020.1.26

会場

大倉集古館
東京都港区虎ノ門2-10-3

料金

一般、大学生、高校生 500円

休館日

毎週月曜日(祝日は開館し、翌平日は休館)
12/28~31、1/1、1/6、1/14、1/20は休館

開館時間

10:00~17:00(入館は16:30まで)

お問い合わせ

TEL:03-5575-5711(代表)

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