2019.10.17

【大人の教養・日本美術の時間】片身替に鳴海織部 ―桃山茶陶のデザイン

(鮫島圭代筆)

桃山時代のアートというと、どんなイメージですか? 天下人、豊臣秀吉の派手好きを象徴する豪華な金箔きんぱく屏風びょうぶを思い浮かべるかたも多いでしょう。同時に、茶の湯のやきものが百花繚乱ひゃっかりょうらんの時代でもありました。

秀吉の前、つまり織田信長の世までは、茶の湯はリッチな人々の文化であり、中国伝来の唐物からものが最高とされていました。しかし、秀吉と、彼に仕えた千利休はそうした価値観を打ち崩し、茶の湯のすそ野を広げました。唐物を尊重しつつも、日本の陶工にオリジナルなやきものを作らせて使ったのです。千利休は、シンプルで静かな境地を求める「び」を重んじて、侘び茶を大成しました。

(鮫島圭代筆)

こうした背景から、日本の風土と感性に根差した斬新なやきものが各地で作られました。わずか数十年間の桃山時代に、多様な名品が生み出されたのです。

桃山時代の茶道具を総称して「桃山茶陶ちゃとう」といいます。

その名産地としてまず名が挙がるのは、美濃みのです。場所は、現在の岐阜県東南部。この地域は、7世紀の須恵器すえきにまでさかのぼるやきもののふるさとで、桃山時代、「黄瀬戸きせと」、「瀬戸黒せとぐろ」、「志野しの」、「織部おりべ」という名だたるブランドを生み出しました。

それ以前、やきものの主流は土色がメインの「焼き締め陶器」でした。つぼかめ、すり鉢といった農村の暮らしに欠かせない道具が大量生産されていたのです。

しかし、美濃の茶陶は違いました。陶工たちが技術を磨いて創造性を発揮したことで、新しいやきものが生み出されたのです。斬新な形、さまざまな色の釉薬ゆうやく、うつわの表面に筆で大胆に描かれた絵など、わくわくするようなデザインのオンパレードです。

美濃の茶陶のターゲット層は、都市に住む裕福な茶人たちでした。生活必需品ではなく、茶の湯のため、つまり純粋に「楽しむ」ためのうつわだったのです。

破格の造形

美濃のなかでも織部は、桃山茶陶の集大成といわれます。織部は、とにかく斬新でかっこいい! というのも、それまで美濃で開発されてきたさまざまな技や釉薬を巧みに組み合わせ、自由闊達かったつな時代の空気を反映した、開放的で大胆なやきものが生み出されたのです。そうしたデザインを「破格の造形」といいます。また、ぐにゃりとゆがめられた非対称な形や、斬新に組み合わされた文様から、「へうげ」(「ひょうきん」の意)ともいわれます。

そんな「破格の造形」の一端をご紹介しましょう。

織部では、茶碗は筒形で左右対称であるはずという概念を取っ払い、形が大きく歪んだ茶碗がさかんに作られました。轆轤ろくろをひくときに、仕上げの段階でわざと歪ませるのです。なかでも、歪みが激しく、楕円だえん形で靴の形を思わせるものは「沓形茶碗くつがたちゃわん」と呼ばれました。

うつわの作り方も多様化しました。たとえば、粘土板(タタラ)を型にかぶせて成形する「型打ち」の技法を使って、複雑な形のうつわを複数作ることができるようになりました。鳥や山の形など、楽しい陶器がたくさん生まれたのです。京都の王朝文化を受け継ぐ形も多く、たとえば「洲浜形すはまがた」は、入り組んだ砂浜の形を模した日本古来のデザインです。

織部といえば緑色の釉薬のイメージですが、ほかにも黄色や黒、白など多様でした。さらには、ひとつのうつわのなかでも部分ごとに異なる釉薬をかけわけることで、よりカラフルな作品が生まれました。

さらに、鉄分を多く含む顔料で絵を描いた「鉄絵てつえ」も大きなみどころです。筆で自由に絵が描けるため、大胆なデザインも意のままに。また、白地に黒い絵を描くのとは反対に、黒く塗った部分を削ることで絵を表す「き落とし」の技法も使われました。

鉄絵の文様にも王朝文化の薫りがただよいます。たとえば「片輪車かたわぐるま」は、平安時代、貴族の乗る牛車ぎっしゃの車輪を、乾燥を避けるため川の水に半分浸した光景を描いたものです。一方、格子こうしの中に点が並ぶ「鹿の子かのこ文様」は、「鹿の子絞り」とよばれる絞り染めの文様をもとに描かれたといわれます。当時流行の着物を彩った文様が、やきもののデザインにも取り入れられたのです。

片身替かたみがわり」は、ひとつのうつわ全体を同じデザインでまとめずに、場所ごとに区切って、印象の違う色や文様をほどこしたものです。洋服で例えれば、切り替えしのあるドレスのような感じですね。遊び心にあふれる片身替は、着物や漆工芸でも流行しました。

さらに「鳴海織部なるみおりべ」と呼ばれるデザインでは、土も2種類使われました。たとえば、白土と赤土の2種類の粘土をつなぎあわせて成形し、白土の部分には緑の釉薬をかけ、赤土の部分には白泥と鉄で文様を描くなど、ひとつのうつわのなかに二つの全く異なる表情が共存しているのです。大胆なセンスと高い技術のなせる技ですね。

今回のコラムでは、織部を中心に、桃山茶陶の魅力をご紹介しました。美術館で見る機会があれば、ぜひ「破格の造形」のキーワードを思い出し、秀吉や利休が茶の湯に情熱を注いだ桃山時代の空気感を想像しながら鑑賞してみてください。

鮫島圭代

プロフィール

美術ライター、翻訳家、水墨画家

鮫島圭代

学習院大学美学美術史学専攻卒。英国カンバーウェル美術大学留学。美術展の音声ガイド制作に多数携わり、美術品解説および美術展紹介の記事・コラムの執筆、展覧会図録・美術書の翻訳を手がける。また水墨画の個展やパフォーマンスを国内外で行い、都内とオンラインで墨絵教室を主宰。https://www.tamayosamejima.com/

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