2021.5.19

【大人の教養・日本庭園の時間】<ツツジ編>毒入り、フルーツ、古代品種に逆輸入と多種多様

「大人の教養・日本庭園の時間」は、前回の「桜スペシャル」につづき、旬の植物を取り上げます。今回は、初夏を彩るツツジ。 ガイドは、京都・南禅寺などの古刹こさつを手がける造園会社「植彌加藤造園うえやかとうぞうえん」の山田咲さんです。


春すぎて 夏きにけらし……あっという間に木陰が気持ちの良い季節になりました。ぐんぐんと若葉を広げる青もみじは、この季節、透明感のある美しさを見せてくれます。

実は、早春から青もみじの美しさが際立つ6月の梅雨頃まで、実に約3か月にわたり、たっぷりと魅力を楽しめる植物があるのです。それはツツジ、そしてその仲間たちです。

日本庭園でもおなじみのツツジ。身近だけど、意外と知らないツツジの世界を一緒に見ていきましょう。

動物には毒のアセビ、ブルーベリー、ハスカップもツツジの仲間

早春の庭園では、ツツジの仲間であるアセビが咲き始めます。ツツジの花というと、赤やピンクでラッパのような形をした花のイメージがあるかもしれませんが、アセビやドウダンツツジのように提灯ちょうちん形の花を咲かせるものもあります。

アセビ

アセビは馬にとって毒であるため、「馬酔木」と書くことがよく知られています。実はアセビに限らず、ツツジの仲間には毒があるものが結構あります。

日本ではツツジを「躑躅」と書きます。「てきちょく」とも読み、足踏みすること、ためらうこと、といった意味があります。一方、中国語では「杜鵑」と書きます。中国語で「躑躅」の字を当てられるツツジの仲間は「羊躑躅」、トウレンゲツツジのみで、これが日本名の由来となっていると考えられています。16世紀(明の時代)の本草書、主に薬に関する情報を集めた今でいうところの植物辞典に近い『本草綱目ほんぞうこうもく』という書物によると、羊がその葉を食べると、足踏みして死ぬところから名付けたものだ、と記載されています。

毒と聞くと恐ろしくなりますが、皆さんにもおなじみのブルーベリーやハスカップも、実はツツジの仲間。毒からおいしい果実まで、ツツジの仲間もずいぶんと幅広いですね。

早春を彩るミツバツツジ

春から初夏にかけて庭園で見られるツツジの花に話を戻します。

ソメイヨシノや山桜が咲き始める春になると、ミツバツツジが赤紫色の花を咲かせます。京都市近辺の里山にはコバノミツバツツジが多いため、他の木々が芽吹く前にいち早く林床を彩って目を引きます。

このミツバツツジは、近代以前は食事や風呂のために火を起こす際の薪まき(柴しば)として重宝されたため、その名残で現在でも雑木林ではよく目にします。「里山のような景」と形容される無鄰菴むりんあん(京都市左京区)でも、早春にはコバノミツバツツジがモミジ林の林床で咲き誇ります。

ミツバツツジ ©植彌加藤造園
©植彌加藤造園
江戸で流行したキリシマツツジ

新緑が深みを増すに従って、大きな花を咲かせるヒラドツツジやモチツツジ、また華やかなキリシマツツジなどが咲き始めます。

キリシマツツジは江戸で流行した古典園芸植物のひとつです。元禄時代、ソメイヨシノ発祥の地としても知られる染井(東京都豊島区)では、植木商たちが自分たちの庭木を植えた圃場ほじょう(畑)を見物客に公開していました。その中の一社、「霧島屋」などを中心にツツジが流行し、染井界隈は桜と並ぶツツジの名所にもなりました。

キリシマツツジ ©植彌加藤造園

この染井のツツジブームにあやかろうとして、大久保百人町(現在の東京都新宿区)に住まう下級武士たちが「江戸キリシマ」と呼ばれるキリシマツツジの栽培を始め、多くの品種が作出されました。享保20年(1735年)に刊行された『続江戸砂子温故名跡志ぞくえどすなごおんこめいせきし』では、キリシマツツジについて薩摩(鹿児島)から大阪、京都を経て江戸へ運ばれたとする起源が記載されています。

しかし、キリシマツツジの祖先は、霧島山系で自然に発生したミヤマキリシマ(霧島山周辺の野生種)とヤマツツジ(日本に広く分布する野生種)の雑種であり、純粋なキリシマツツジという野生種はないのです。つまり、現在言われているキリシマツツジとは、さまざまな園芸品種の総称といえます。

海を越えたクルメツツジ

戦前に海を越え、日本から欧米へ渡ったのがクルメツツジです。

江戸時代末期、福岡県久留米市でキリシマツツジと九州の野生ツツジを親として品種改良が行われ、クルメツツジが生まれました。大正初期に日本を訪れたイギリス人プラントハンター、アーネスト・ヘンリー・ウィルソンは、横浜でクルメツツジを目にします。久留米まで足を運んだウィルソンによって、50品種のクルメツツジがアメリカに紹介され、日本のツツジが欧米に広まるきっかけとなりました。

アーネスト・ヘンリー・ウィルソン

キリシマツツジやクルメツツジも品種によって開花期や花の大きさが異なりますが、4月中旬~5月中旬頃に小さめの花を咲かせます。

平安時代から愛されたサツキ、逆輸入のシャクナゲ

少し遅く、5月~6月中旬頃に開花するのがサツキです。

サツキの原種は渓流沿いの岩場に自生しているのですが、園芸植物としての歴史も非常に古く、平安時代には庭園に植栽されていました。サツキは育てやすく盆栽に仕立てやすいこと、突然変異を起こしやすく、多くの品種が生まれやすかったこと、また、春の花があらかた咲き終わった後の時期に咲くことなどから、江戸時代には庶民の間でも流行し、江戸時代中期から番付が発行されるほどの人気となりました。

たくさんの花が集まって咲き、華やかなシャクナゲも、ツツジの仲間です。

シャクナゲ

シャクナゲの園芸化がはじまったのは19世紀のことで、日本や中国、チベットなどから持ち帰った原種を親として西欧諸国で品種改良が進み、日本へは逆輸入されて人気になりました。シャクナゲも品種によって開花期が異なり、早いものでは桜と同じ頃から、遅いものは6月上旬頃までが見ごろです。

いかがでしたか? 身近なようで、意外と知らないツツジの世界。次に街路樹などでツツジを見かけたら、その多彩な来歴などに少し想像をふくらませてみると、また初夏の景色が味わい深くなることでしょう。

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山田咲

プロフィール

植彌加藤造園 知財企画部長

山田咲

1980年生まれ。東京都出身。慶応義塾大学文学部哲学科卒業、東京芸術大学大学院映像研究科修了。現在、京都で創業170余年の植彌加藤造園の知財企画部長を務める。国指定名勝無鄰菴をはじめ、世界遺産・高山寺、大阪市指定名勝の慶沢園などで、学術研究成果に基づいた文化財庭園の活用のモデルを推進。開発した[文化財の価値創造型運営サービス]が2020年度グッドデザイン賞受賞。他方で舞台芸術作品の制作などにも関わり、文化的領域を横断した活動を続けている。

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