2019.8.16

【外交官アート日記】タイ大使「皇室、王室の絆は日タイ関係の基軸」

バンサーン・ブンナーク駐日タイ大使インタビュー

タイ大使公邸(東京・品川区)

「紡ぐプロジェクト」の一環で2019年3月から6月にかけて東京国立博物館で行われた二つの特別展「両陛下と文化交流」と「美を紡ぐ 日本美術の名品」の開会記念式典は同年3月に行われた。バンサーン・ブンナーク駐日タイ大使はその式典に出席した外国政府代表の一人。紡ぐプロジェクトはその後、ブンナーク大使のインタビューをタイ大使公邸(東京・品川区)で行い、官民連携で日本の美の「保存・修理・公開」に取り組むこのプロジェクトについてどう思うか、また、皇室とタイ王室の現在の関係などについて聞いた。 

紡ぐプロジェクトは3月初旬の特別展開幕とともに正式にスタートした。プロジェクトの取り組みや「両陛下と文化交流」展35日-429日)について感想を。 

日本の美を広く伝えようという紡ぐプロジェクトの取り組みに深い感銘を受けた。国の宝を修理し、保存しようという取り組みに敬意を表したい。展覧会は上皇さまが幼かった頃に召された衣装や金色の箱(香箱)などの逸品が展示され、たいへん印象的だった。タイの伝統的な手工芸品に似た品物もあり、タイと日本の美術に共通するものがあることをうかがわせた。自然美を荘厳に描いた日本の伝統絵画にも感動した。 

展覧会でも見られた日本の繊細な美術からは、世代から世代へと伝えられてきた日本に固有の巧みな技術がはっきりとうかがえる。日本の美術は非常に優れており、貴重なものだ。特別展を鑑賞する機会を与えられ、誠に光栄に思う。 

「両陛下と文化交流」展について語るバンサーン・ブンナーク駐日タイ大使

都内にあるこの素晴らしい大使公邸も優れた日本の美術品であふれている。公邸にはどのような歴史があり、どのような所蔵品があるのか。 

 タイ政府が1943年に購入したこの公邸で暮らすことができて光栄に思う。建築そのものもアートと言えるが、元の所有者であった十代浜口吉右衛門が雅人だったこともあり、いくつもの芸術作品が所蔵されている。一例を挙げると、千葉県沖の暴風雨のただ中で荒れる海を描いた前田寛治(1896―1930年)の有名な絵画(「海」)がある。1929年、年に一度のコンテスト[帝展]で最高の栄誉[帝国芸術院賞]に輝いた作品で、その後、各地の大展覧会で展示されてきたものだ。彫刻家の北村正信(1889―1980年)による女性像3点も所蔵している。古伊万里の上品な陶芸品も2点ある。 

玄関を飾る古伊万里

タイではどのようにして文化財を守っているのか。 

タイでは、文化省芸術局が文化遺産や芸術を保存したり、公開したりする国の主要機関だ。1911年の創設から、公文書館を管理したり、考古学的な発掘調査を促進したり、古代遺跡や有形・無形の文化財を保存したりといった任に当たっている。深く根を下ろしているタイの文化や伝統について、他の政府機関、民間部門、公衆の理解を促進することも役割の一つだ。 

2009年発足のシリキット王妃養蚕局は、タイの絹文化を保存するうえで、大きな役割を果たしてきた。染色、織物、刺繍ししゅうの技術も含めての保存事業だ。王室がかかわるこの事業は、民衆の知恵を保存しつつ、国際基準に見合うようタイの絹製品をさらに発展させることを目的としている。 

――今の日タイ関係をどう思うか。2020年には、東京五輪・パラリンピックが開催されるが、タイからの訪日客は多くなるだろうか。 

日本とタイは今日、皇室と王室、政府間、国民と国民のあらゆるレベルで親しい関係にある。パートナーという以上の関係ではなかろうか。友好は長く続いてきたもので、いずれかの国が困難に直面したり苦境にあったりした時は、いつでも相手に救いの手を差し伸べるような間柄だ。 

日本とタイは2017年に修好130周年を迎えた。両国政府は協力して様々な記念イベントや事業を企画した。王立バンコク交響楽団は東京・サントリーホールでコンサートを開き、日タイ両国外相も出席した。世耕経産相は日本の財界から600人以上を伴い、タイを訪問した。九州国立博物館と東京国立博物館では、特別展「タイ~仏の国の輝き~」が開かれ、タイの美術品130点が展示された。これらの美術品がタイの外で展示されることはめったにない。 

今年は日本でラグビー・ワールドカップが開催されるし、2020年には東京五輪・パラリンピックも開かれる。これらの大会期間中、タイからの訪日客が増えるのはまず間違いないだろう。タイからの訪日客はただでさえ、日本政府がビザを免除する措置を講じてから、毎年増えている。昨年は100万人以上の訪日客があった。増加傾向は今後も続くだろう。逆に、日本からタイを訪れた観光客は昨年、160万人にも上った。タイと日本の絆はますます強まっており、喜ばしいことだ。 

様々な美術品が飾られている公邸内

皇室とタイの王室はたいへん近しい関係にあることが知られている。今後はどのような展開が見られると思うか。 

皇室と王室の関係は単に近しいというだけではなく、タイ日両国関係の基軸だ。 

上皇さまは、タイのプミポン・アドゥンヤデート前国王陛下とたいへん近しい関係にあった。お二人の友情は前国王が来日した1963年以降、半世紀以上にも及んだ。その翌年、上皇ご夫妻(当時の皇太子ご夫妻)は昭和天皇の名代としてタイを訪問、平成の天皇陛下(上皇さま)が即位された91年には、最初の海外ご訪問先としてタイを選ばれた。さらに2006年には、前国王陛下の即位60周年記念式典に参列するため、再びタイを訪問された。 

プミポン・アドゥンヤデート前国王陛下が16年10月に崩御されると、上皇ご夫妻は様々なお気遣いを示され、哀悼の意を表された。皇室のそのほかの方々にもお気遣いをいただいた。これらのことは、タイの国民にとって、心の琴線に触れることだった。ご夫妻が弔問のため、17年3月にタイを訪問されたことは、私を含め、多くのタイ人の記憶に刻まれた。 

タイと日本はいずれも新しい時代を迎え、今年は双方にとって喜ばしい年だ。日本では新しい天皇陛下が即位され、令和の時代が始まった。タイも新国王の正式な即位を祝う。タイの王室と皇室の間の親しさは、両国の友好関係の強固な基盤であり続けるに違いない。このような喜ばしい節目に、タイの駐日大使としての務めを果たすことができ、たいへん光栄に思う。 

 (読売新聞紡ぐプロジェクト事務局 松浦一樹、写真=沢野未来) 

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