2020.11.27

【和菓子ごよみ11月】亥の子餅―源氏物語にも登場 無病息災に火よけの願いも

髙島屋の和菓子バイヤー・畑主税さんが、毎月の行事や旬の素材にちなんだ、とっておきの和菓子を紹介します。11月は「の子餅」です。イノシシの子というと、横じまの模様がかわいらしい「うり坊」。そんなかわいらしい雰囲気の餅菓子、やはり古くからの伝統にちなんだものだそうです。まずは亥の子餅の由来からひもときましょう。

ルーツは平安時代!

亥の月(旧暦10月)初めの亥の日(今年は11月4日でした)、亥の刻(午後10時頃)に餅を食べると万病を除くという風習が中国から伝わり、平安時代には宮中行事のひとつとなっていました。紫式部の「源氏物語」では、光源氏と紫の上との新婚2日目の夜、亥の子餅が届く場面が描かれています。

古くは「大豆、小豆、大角豆ささぎ胡麻ごま、栗、柿、あめの七種の粉」を入れた餅をついたそうです。

また、イノシシは多産であることから子孫繁栄を願う意味も込められたとか。亥の月の最初の亥の日を「玄猪げんちょの日」と呼んで「玄猪の祝い」として餅を贈り合う風習もあったことから、「玄猪餅げんちょもち」とも言われます。

一方、亥は陰陽五行説では水性に当たるため火難を逃れるという信仰があり、この日に火鉢やこたつを出す習わしもありました。茶の湯の世界でも「炉開き」を行い、茶席菓子として亥の子餅が用いられています。

さて、現在は小豆や胡麻を練り込んだ茶色いお餅であんを包むスタイルが定番ではありますが、「花びら餅」ほどは厳密に素材や形状が定まっていないこともあり、お店によって、さまざまな工夫が施され、バリエーションが出てくるのが特徴でもあります。早速ご紹介して参りましょう!

圧倒的な胡麻の香り…そして秋の豊穣を味わう

何よりも女将さんの笑顔とお菓子の説明を聞くだけで、とにかく楽しいお店です。亥の子餅は、餅生地に黒胡麻を練り込むことは多いのですが、こちらは白胡麻を混ぜた黒胡麻で餅生地が見えないほどに覆われています。食べてみると、とろりと柔らかい餅生地の食感と、圧倒的な胡麻の香りに魅了されるのも束の間、そのすぐ後に胡麻とは違う何かが歯に当たり、その存在を訴えてくるのです。

断面を確かめると、黄色い丸いものが見える……そう、銀杏が入っていて、さらにオレンジ色の干し柿まで現われます。まさに豊穣を表現する秋の餅菓子の代表格。「盛りだくさん過ぎるのでは?」と思うかもしれませんが、うまく粒あんが要素をつなぎ合わせ、一体化されています。

【亥の子餅】1個 税込330円
◆川口屋/愛知県名古屋市中区錦3-13-12
TEL:052-971-3389
https://twitter.com/kawaguchiya_758
(11月中販売予定)

まさに猪突猛進 粒あんの風味が駆け抜ける

続いては、京都・二條若狭屋の亥の子餅。こんもりした俵形で、遠目にはおはぎのようにも見えます。小豆の煮汁で茶色に染められた餅生地に白胡麻が練り込まれていて、口の中で弾けると同時に、ふんわりと胡麻が香り、そこに粒あんが一気に押しあがってきます。胡麻の香りに負けない粒あんの風味の力強さは、まさに猪突猛進に駆け抜けていくイノシシを思わせます。

非常にシンプルな構成ではありますが、食べ飽きない。それが晩秋に登場する亥の子餅の魅力かもしれませんね。

【亥の子餅】1個 税込み432円
◆二條若狭屋/京都府京都市中京区二条通小川東入ル
TEL:075-231-0616
http://www.kyogashi.info/
(12月初旬まで販売予定)

茶色のお餅に見せるワザ

お店ごとに個性が際立つ亥の子餅ですが、伊勢屋(福井県小浜市)は、柔らかい求肥ぎゅうひ餅に小豆の粒を散らして、こんもりと形を整えて、その内側には、こしあんを包んでいます。茶色系のお餅が大半で、ほかに餅生地を茶色に染めるパターンもありますが、こうして、あんの色を透かし見せる方法もあります。

そして、こしあんか粒あんが包まれているのかと思いきや、その中心には栗あんが隠れていて、これは何とも嬉しい!!

【亥の子餅】1個 税込324円
◆伊勢屋/福井県小浜市一番町1-6
TEL:0770‐52‐0766
https://obama-iseya.com/
(12月中旬まで販売予定)

思わず断面を二度見! 中に入っているのは…

名古屋の亀広良の亥の子餅(写真奥)は、ふわりと柔らかな羽二重餅に黒胡麻を練り込み、こしあんを包んでいる。……というだけでなく、このこしあんに干し柿とクルミが入っていて「本当に!?」と思わず断面を二度見してしまいます。

組み合わせのことを考えてみると、最初にご紹介した川口屋では干し柿と銀杏が入っている。ひょっとしたら、名古屋では比較的一般的なのでしょうか…? これはまたあちこちの亥の子餅を食べてみなくてはならないと、僕の興味は高まるばかりです。

【亥の子餅】1個 税込350円
◆亀広良/愛知県名古屋市西区上名古屋1-9-26
TEL:052-531-3494
http://www.kamehiroyoshi.com/
(12月初旬まで販売予定)

粒あんの風味の中でクルミが踊る

滋賀県・安曇川のとも栄の亥の子餅は、若旦那が東京の名店・一炉庵で修業されていたこともあり、小豆を餅生地に練り込んで茶色く染めていくスタイル。こんもりとした形状ではなく、コロコロとした俵型で、表面には焼き目も入っています。

そして、内側は粒あんにクルミが混ぜ合わせられているのです。僕が初めてこちらの亥の子餅をいただいたときは、クルミが中心にあり、もちろんおいしかったのですが、粒あんとクルミのおいしさが、別々に伝わってくるように感じられ、「2つが融合したらもっと楽しいかもしれない…」と思い、僭越せんえつながらご提案申し上げたところ、同時に楽しめるいまの形となりました。小豆の風味をしっかりと感じながら、クルミが口の中で踊るようです。

【亥の子餅】1個 税込281円
◆とも栄/滋賀県高島市安曇川町西万木211-1
TEL:0740-32-0842
https://www.sweet-tomoe.com/
(12月初旬まで販売予定)

畑主税

プロフィール

髙島屋和菓子バイヤー

畑主税

1980年生まれ、大阪府出身。2003年に髙島屋に入社し、洋菓子売り場の担当を経て、06年和菓子売り場の担当に。京都の和菓子を作りたてのままで提供したいという思いから、人気店の上生菓子を自ら京都で仕入れ、新幹線で運び、夕方に店頭に並べ話題を集めた。全国1000軒以上を巡り、食べた和菓子は1万種以上。著書に「ニッポン全国 和菓子の食べある記」(誠文堂新光社)。ブログ「和菓子魂!」(http://blog.livedoor.jp/wagashibuyer/) Twitter:@wagashibuyer

Share

0%

関連記事Related articles

編集部からFrom the Editor

一覧ページへ