2020.10.16

【和菓子ごよみ10月】不老延命の伝説にあやかりたい 菊をめでて味わって

髙島屋の和菓子バイヤー・畑主税さんが、毎月の行事や旬の素材にちなんだ、とっておきの和菓子を紹介します。10月は、菊をかたどった美しいお菓子の数々。旧暦9月9日「重陽ちょうようの節句」にちなんだものですが……この節句、あまりなじみがないかもしれません。まずは「重陽の節句」を説明 してもらいましょう。

古来中国では、奇数は縁起が良い「陽の数」と考えられ、奇数が重なる3月3日や5月5日、7月7日などは節目の日「節句」とされました。一桁の奇数で最も大きい「9」が重なる日であることから、9月9日を「重陽」と呼びます。

旧暦の9月9日は現在の10月半ば、ちょうど菊の花の盛り。菊は邪気を払い、長寿の効能があるとされており、菊の花の上に真綿を乗せて、その夜露で体を拭うと不老長寿に恵まれるという伝説もあります。現在では、菊の花を浮かべて、その香りを移した菊見酒を飲んで長寿を願います。

しかし、新暦の9月9日ですと、残暑が厳しく、菊の花がまだ咲き始めていない上に、長寿を祝う「敬老の日」に押されてしまって、今ではややマイナーな印象はぬぐえません。そこで、本来の菊の花が咲き誇る時期に、お菓子と共に、菊の花をでて楽しんではいかがでしょう。

まるで芸術作品! みとれてしまう上生菓子
まさり草
千代見草
よわい草

大輪の菊の花が咲く。ボリュームのある華やかな菊の花びらをひとつ、ひとつ練切ねりきりの生地にはさみを入れて仕上げていく様子は、まさに職人技と言えるでしょう。富山県の名店・引網ひきあみ香月堂の4代目・引網康博さんは、 全国和菓子協会が高い技能を持つ和菓子職人を認定する「選・和菓子職」であり 、さまざまな実演販売では、その場でお客様のリクエストを聞いて形作っていくというすごい職人さんなのです。 菊の花の形をリアルに再現する、この鋏菊という技法は、まさに凄腕すごうでの職人さんでなければ成しえない生菓子のひとつです。

また銘(お菓子の名前)は「まさり草」ですが、これは菊の別称であり、「千代見草」や「よわい草」などさまざまな名前を持つことからも、菊の花が大切な存在であることがうかがえますね。

【まさり草】1個 税込540円(要予約)
◆引網香月堂/富山県富山市古沢111-3 TEL:076-471-8755
https://www.hikiami.co.jp/

黄色が鮮やか パリッと軽やかなせんべい
菊花せんべい

金沢の老舗・落雁らくがん諸江屋もろえやの「菊花せんべい」は、まるでヒマワリのように、はっきりとした黄色に染められています。リアルですね。小麦粉でもなく、バリバリとしたうるち米の煎餅でもなく、もち米でできています。パリッと軽やかで、最中の皮のような食感です。

表面には黄色く染めたショウガ砂糖が塗られており、さっぱりとした甘みとショウガの風味が広がります。ちょっとブローチみたいにも見える。可愛かわいらしいアクセサリーにも見えたりしませんか?

【菊花せんべい】1箱 税込756円
◆落雁諸江屋/石川県金沢市野町3-1-38 TEL:076-241-2854
http://moroeya.co.jp/

奈良・吉野の葛でほんのりとした甘み
菊の香

続いてご紹介するのが、松屋本店の「菊の香」です。実にシンプルに、菊の花の形に打ち出された干菓子です。

松屋本店といえば、奈良は吉野の老舗。吉野と言えば、多くの和菓子屋さんが取り寄せる吉野葛の産地でもあります。葛湯であったり、くずきりであったり、大好きな方も多いでしょう。阿波の和三盆糖に、吉野葛を合わせて仕上げられているので、ほんのりとした甘みと、独特の口当たりが生まれています。

「菊の香や 奈良には 古き仏たち」という松尾芭蕉の句もあります。雅やかな奈良の都の菊の香りを、この菓子を味わいつつ、思い起こしていただきたいですね。

【菊の香】30個入 税込1310円
◆松屋本店/奈良県吉野郡吉野町飯貝520 TEL:0746-32-2006
https://www.yoshinoshui.com/

初代が生み出した驚きの落雁
野菊

砂糖と寒梅粉だけでは、もちろんこのような茶色にはなりません。何が入っているのであろうかと、味わって探っていただきたいですね。もちろん原材料の表示を見たら、すぐに分かってしまうのですが、実は、こちらには、アーモンドが入っているという意外な取り合わせなのです。

さらにビックリするのは、このお菓子が最近できたものではないこと。アーモンドは洋風の素材ですので、和菓子に使われることは少ないのですが、百万遍ひゃくまんべんかぎやでは、初代が生み出したお菓子のひとつなのです。初代はモロッコに旅行に出かけるという先進的な方だったようで、地中海でアーモンドと出会って、このお菓子を生み出したというのです。これなら、落雁になじみのない人も、きっと食べやすいだろうと思いますし、コーヒーや紅茶とも合わせやすく、和菓子の可能性を広げてくれるはず。100年近く前に生まれたもの……やっぱりすごいものだなあと思うわけです。

【野菊】15個入 税込680円
◆百万遍かぎや/京都府京都市左京区百万遍角吉田泉殿町1 TEL:075-761-5311
http://www.kyoto-kagiya.co.jp

尾形光琳の図案を元にした抽象の美の極致
光琳菊

華麗な菊の花を鋏菊という高度な技法で具現的に表現していく生菓子もまた美しいものですが、その細やかなリアルな造形を一切省いて、抽象的に表現した美の極致とも言える生菓子も存在します。京都の和菓子屋さんを中心に、道明寺や薯蕷じょうよ饅頭まんじゅうなどで表現されることが多いのですが、飾らないことの美しさもまた見事なものです。

美術の世界では、尾形光琳が描いた屏風絵にある菊の花が、「光琳菊」と呼ばれています。まるでヒナギクのように丸く、抽象的。それと同じように表現されているのが、こちらの生菓子です。華やかで麗しくもあり、また素朴で可憐かれんでもあり、いろいろな菊の姿を映し出しています。

【光琳菊】1個 税込432円
◆千本玉壽軒/京都府京都市上京区千本通今出川上ル TEL:075-461-0796
http://sentama.co.jp/

畑主税

プロフィール

髙島屋和菓子バイヤー

畑主税

1980年生まれ、大阪府出身。2003年に髙島屋に入社し、洋菓子売り場の担当を経て、06年和菓子売り場の担当に。京都の和菓子を作りたてのままで提供したいという思いから、人気店の上生菓子を自ら京都で仕入れ、新幹線で運び、夕方に店頭に並べ話題を集めた。全国1000軒以上を巡り、食べた和菓子は1万種以上。著書に「ニッポン全国 和菓子の食べある記」(誠文堂新光社)。ブログ「和菓子魂!」(http://blog.livedoor.jp/wagashibuyer/) Twitter:@wagashibuyer

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