2019.12.18

【ボンボニエールの 物語vol.11】大正13年 正倉院宝物技法のボンボニエールの物語

亀甲形鶴螺鈿蒔絵(学習院大学史料館蔵)

ここで今までのおさらいを少し。秩父宮勢津子妃が著書の題名を『銀のボンボニエール』とされたように、明治中期より下賜されるようになったボンボニエールは、現在に至るまでほぼ銀製。しかし、これまでのコラムでご紹介したように、漆塗りのボンボニエールも作られ、さらには紙製のボンボニエールがあったこともご紹介した。近年では陶磁器製で作られることも多い。

今回、ご紹介するのは銘木・紫檀したん製のボンボニエールである。後の昭和天皇・香淳こうじゅん皇后となる、皇太子裕仁ひろひと親王と久邇宮くにのみや良子ながこ女王の結婚祝宴のボンボニエール、それが紫檀製であった。

紫檀に螺鈿に蒔絵の超絶技巧

紫檀製ボンボニエールの形は六角形で、亀甲きっこうを模している。その胴部には鶴の文様がちりばめられ、蓋の表には、金のひら蒔絵まきえで松の枝が描かれている。 形と文様に鶴・亀・松。吉祥文である「蓬莱山ほうらいさん」を表す演出である。

蓬莱山とは、中国の伝説上の山。不老不死の仙人が住み、洲浜すはまの岩の上に、松と竹と梅が生い茂り、空には鶴が、海には亀がすむという理想郷だ。さらにこの理想郷自体を、大亀が背負っているという。日本では平安時代より漆工芸や鏡の文様に多く取り入れられた。

ボンボニエールの見た目は紫檀の色合いから、つつましやかに感じるが、実はとても手の込んだ技法で制作されている。紫壇の木地は大変硬い。それをまず鶴形に切り抜き、そこに同じ形に切った薄貝をめ込む。蓋表部分には菊花形に切った貝を嵌め、さらにその上に金蒔絵で十六葉じゅうろくよう八重表菊紋やえおもてぎくもんを描く。蓋と身の合口あいくちには銀をめぐらしている。

これは木地螺鈿きじらでんという技法である。この技法は、古代東洋の工芸史上・最高の傑作と言うべき至宝、正倉院宝物「螺鈿らでん紫檀したんの五絃ごげん琵琶びわ」、その技法に通じるものなのである。この秋、東京国立博物館で開かれた「御即位記念特別展 正倉院の世界-皇室がまもり伝えた美-」に出品されていたので、ご覧になった方も多くいらっしゃると思う。

この技法がどんなに大変であるのかは、蒔絵の重要無形文化財保持者、いわゆる人間国宝の室瀬和美さんに、このボンボニエールを見ていただいた時の一言が端的に表しているだろう。「作れるけど、作りたくないな…」

いわゆる超絶技巧なのだ。正倉院の至宝の技法が千年の時を経て、皇太子の結婚という慶事の引き出物となったのである。

螺鈿紫檀五絃琵琶 唐時代 8世紀(正倉院宝物 )

またこの技法は、皇族の結婚初夜、新郎新婦の枕元に共進される「三日夜餅みかよのもちい」を納める「紫檀ニ螺鈿ノ箱」にも受け継がれている。

こちらの螺鈿文様はつばめである。いずれにも伝統技法を守ろうとする皇室の思いがうかがわれる品である。

紫檀ニ螺鈿ノ箱 皇太子並同妃両殿下御服御調度類図(宮内公文書館蔵)
2種類のボンボニエール

この紫檀のボンボニエールは、松飾りのついた白木の折敷おしきに載せられて下賜された。

白木の折敷は同様だが、実はボンボニエールには2種類あることがわかっている。大変微妙な差でよくよく見ないとわからないが、一つ(写真右)は、これまでご紹介した超絶技巧。もう一つ(同左)は蓋表の松枝蒔絵がなく、御紋も螺鈿なしの蒔絵のみで、少し簡素である。それでも、もちろん超絶技巧なのだが。

亀甲形鶴螺鈿蒔絵(午餐時下賜)、亀甲形鶴螺鈿蒔絵(晩餐時下賜)(学習院大学史料館蔵)

皇太子裕仁親王・良子女王結婚の宮中饗宴きょうえんは、大正13年(1924)5月31日より4日間にわたって行われた。このうち晩餐ばんさん会は初日のみで、皇族、いわゆる高級官僚、各国大使公使、宮内省各部局長官、東宮職職員、女官等が招かれた。この際に、より超絶技巧の方のボンボニエールが下賜され、残り3日間の午餐の際に、少し簡素な方が下賜されたと思われる。

同じ慶事の饗宴でも、日によりボンボニエールに差を持たせ下賜する例は、皇太子外遊帰国記念の箱形波文ボンボニエールでも、また令和初のボンボニエールでも見られた。今後紹介するお話にもいくつか出てくる。位により着装する装束の色目が違う伝統を持つ皇室ならではの、これも伝統なのかもしれない。

皇太子裕仁親王と久邇宮良子女王の結婚に際しては、紫檀製のボンボニエール以外にも文庫形雲形文、卵形亀甲文、そして「可愛かわいいボンボニエール」のベスト5に入るであろう「うさぎ置物形」も作られた。この可愛らしいボンボニエールについては、いずれ改めてお話をしたいと思う。

長佐古美奈子

プロフィール

学習院大学史料館学芸員

長佐古美奈子

学習院大学文学部史学科卒業。近代皇族・華族史、美術・文化史。特に美術工芸品を歴史的に読み解くことを専門とする。展覧会の企画・開催多数。「宮廷の雅」展、「有栖川宮・高松宮ゆかりの名品」展、「華ひらく皇室文化-明治宮廷を彩る技と美―」展など。著作は、単著「ボンボニエールと近代皇室文化」(えにし書房、2015年)、共著「華ひらく皇室文化-明治宮廷を彩る技と美―」(青幻舎、2018年)、編著「写真集 明治の記憶」「写真集 近代皇族の記憶―山階宮家三代」「華族画報」(いずれも吉川弘文館)、「絵葉書で読み解く大正時代」(彩流社)など。

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