2020.8.2

【ボンボニエールの物語vol.27】終戦記念日に寄せて、の物語

8月15日は終戦記念日。今年で75年を迎える。戦争を知らない世代が多くを占めるようになり、だんだんと戦争の記憶が薄れていってしまう。二度と同じ過ちを犯さないためにも、せめてこの時期だけでも反省と自戒を込めて、戦争関連の話をしよう。

砲弾形ボンボニエール      北白川宮永久王陸軍砲兵少尉御任官記念
昭和6年(1931年)10月26日 底径3.0×高さ7.0 ㎝
(学習院大学史料館)

砲弾形のボンボニエール

お祝い事の際に作られ、周りの方々と喜びを分かち合う菓子器であるボンボニエール。これまで見てきたように、そのお祝い事にふさわしい意匠でボンボニエールが制作されてきた。

どのボンボニエールも形が考えられており、伝統的な吉祥文なども施されて、まさに喜びの器であった。ところが、昭和の初め頃から、兵器をかたどったボンボニエールが出現するようになるのである。もっとも、この形とて、祝事をあらわす意匠であったのであるが。

最初に登場するのは、砲弾形。昭和6年(1931年)10月26日に北白川宮永久王ながひさおうが陸軍砲兵少尉に任官した際のボンボニエールである。昭和6年といえば、満州事変が起こった年である。昭和6年9月18日、中国東北部奉天(現在の瀋陽)郊外の柳条湖で満鉄の線路が爆破された。この事件を契機として日本軍は東北部を侵略し、翌年「満州国」を建国した。以後、15年に及ぶ日中戦争の発端となった事件が満州事変である。

そのような未来を暗示するかのような砲弾形。形は美しく、北白川宮永久王のものと思われるイニシャルがアンティーク風にデザインされ、刻印されている。永久王はこの数年後、非業の死を遂げるのだが、その話はまたいずれ。

      魚雷形ボンボニエール 朝香宮正彦王御成年式晩餐会        
昭和10年(1935年)1月28日 径2.0×長さ12.8 cm
(個人蔵)

魚雷形のボンボニエール

次に登場するのは、魚雷形のボンボニエール。朝香宮正彦王ただひこおうが昭和10年(1935年)1月28日に成年式を迎えられた際のボンボニエールである。朝香宮正彦王は、朝香宮鳩彦王やすひこおうの第2王子。昭和9年に海軍兵学校を卒業し、翌年、戦艦榛名はるなへの乗り組みを命じられた。こういった経歴から魚雷形のボンボニエールを制作したのであろう。プロペラ部分が動き、意匠と制作年代から八九式はちきゅうしき魚雷と思われる。このボンボニエールの刻印は「純銀宮本製」である。「宮本」とは、いまも銀座で皇室御用の銀器を制作販売している「宮本商行」のこと。その、宮本商行によれば、これは「葉巻入れ」であるという。確かに、金平糖を入れるより葉巻を入れる方が似つかわしいが、そうなると、ボンボニエールと呼んでよいのか、悩むところである。

ちなみに、正彦王の兄宮孚彦王たかひこおう成年式のボンボニエールは、あの複葉機形ボンボニエールである(⇒【ボンボニエールの物語vol.21】どこが開くの、このボンボニエール?の物語、【vol.22】ここが開くのか、このボンボニエール!の物語)。そうなると、複葉機形ボンボニエールも戦争関連のボンボニエールカテゴリーに入れてよいということになる。

戦車形    朝香宮孚彦王陸軍歩兵少尉御任官ご披露
昭和8年(1933年)10月20日 8.0×5.2 高さ3.5 ㎝
(三の丸尚蔵館蔵)

戦車形のボンボニエール

そして、最後は極めつき、戦車形のボンボニエールである。複葉機形ボンボニエールの朝香宮孚彦王が陸軍歩兵少尉に任官された際のものである。複葉機が制作されたのが、昭和7年(1932年)。その翌年には、この戦車形である。どんどん戦時色が強まっていく。実は、私はこのボンボニエールを実見していない。なので、キャタピラーが動くのか、どこが開くのか、など不明である。

深みにはまるまで、立ち位置に気が付かないことがある。このボンボニエールを作っていた頃は、まだ戦争の悲惨さは遠いものであったのかもしれない。

長佐古美奈子

プロフィール

学習院大学史料館学芸員

長佐古美奈子

学習院大学文学部史学科卒業。近代皇族・華族史、美術・文化史。特に美術工芸品を歴史的に読み解くことを専門とする。展覧会の企画・開催多数。「宮廷の雅」展、「有栖川宮・高松宮ゆかりの名品」展、「華ひらく皇室文化-明治宮廷を彩る技と美―」展など。著作は、単著「ボンボニエールと近代皇室文化」(えにし書房、2015年)、共著「華ひらく皇室文化-明治宮廷を彩る技と美―」(青幻舎、2018年)、編著「写真集 明治の記憶」「写真集 近代皇族の記憶―山階宮家三代」「華族画報」(いずれも吉川弘文館)、「絵葉書で読み解く大正時代」(彩流社)など。

Share

0%

関連記事Related articles

編集部からFrom the Editor

一覧ページへ