2020.1.10

【ボンボニエールの物語vol.13】皇室 新年の物語 その1

皆さま、明けましておめでとうございます。今年も「ボンボニエールの物語」をよろしくお願いします。

皇室のお正月
宝船形(御紋) 昭和10年(1935年) 宮内庁三の丸尚蔵館蔵

皆さまはお正月をどう過ごされたのだろうか。お正月といえばお雑煮とおせち料理をいただいてのんびりと過ごす、という方が多いのかと思うが、皇室の方々の新年は大変お忙しい。天皇陛下がその年の最初の祈りを捧げられる元旦の「四方拝しほうはい」に始まり、重要な行事や宮中祭祀さいしが続く、1年のうちでもっともお忙しい時期なのである。

陛下は元日の朝午前5時30分、黄櫨染こうろぜんの御袍ごほうを召され、伊勢神宮と四方の神々を遥拝ようはいされる。これが「四方拝」である。

その後宮中三殿に拝礼。ここからは天皇・皇后両陛下、分刻みのスケジュールで新年行事に臨まれる。元日の皇族方、内閣総理大臣や各国の外交官から新年のあいさつを受けられる「新年祝賀の儀」は何回にも分けて行われる国事行為。1月2日は新年一般参賀、1月3日元始祭げんしさいの儀、1月4日奏事始そうじはじめの儀、1月7日昭和天皇祭の儀、1月10日頃には講書始こうしょはじめの儀、歌会始の儀、と連日重要儀式が続くのである。

このようにお忙しいからなのだろうか、新年にまつわるボンボニエールというものが見当たらないのである。そこで今回のボンボニエールは「宝船」とした。「宝船」は正月の縁起物の一つ。米俵や宝物を積み七福神が乗り込んだ帆掛け船の絵に、「ながきよの とおのねぶりの みなめざめ なみのりぶねの おとのよきかな」という回文かいぶん歌が書かれている。これを正月2日の夜、枕の下に置いて寝ると吉夢をみるという。

実際にはこの宝船形ボンボニエールが出されたのは、昭和10年(1935年)4月に満洲国皇帝溥儀ふぎが来日した際の宮中晩餐ばんさん会であった。

御裳捧持者
大礼服 昭憲皇太后着用(共立女子大学蔵)

戦前まで、新年の拝賀は最も格式が高い儀式で、女性皇族のドレスコードは大礼服(マント・ド・クール)と規定されていた。マント・ド・クールはデコルテが大きく開いた、袖なしか短い袖のドレスで、腰か肩から長いマント(トレーン)をつける。皇后陛下着用のマントは長さが390㎝、幅240㎝と決められていた。これだけ長いものを着用すると当然重さで前進することも困難なこととなる。

そこで登場するのが、引き裾を捧げ持つ御裳おんも捧持者ほうじしゃ(ページボーイ)と呼ばれる13~15歳の少年たちである。皇后陛下には4人、さらに控えとして後ろに2人、妃殿下方には2人ずつ御裳捧持者が付き従うことになっており、学習院在学の華族の子弟の中から選ばれることとなっていた。三笠宮百合子妃殿下によれば「あまりわんぱくではない」生徒が選ばれたという。

三島由紀夫の小説『春の雪』にも、少年たちが御裳捧持を務める様子が描かれている。「お裾持の小姓の服は、膝の下まで届く半ズボンと上着がそろいの藍の天鵞絨てんがじゅう(ビロード)地で、胸の左右に四対の大きな白い鞠毛まりげがつき、同じふくよかな白い鞠毛が左右の袖口にも、ズボンにもついていた。腰には剣をき、白靴下の足には黒エナメルのぼたん留めの靴を穿いた。白いレエスのひろい襟飾りの中央に、白絹のタイを結び、大きな羽根飾りのついたナポレオン風の帽子は、絹の紐で背へ吊られていた。華族の子弟のうちから、成績のよい子だけが二十人あまり選ばれ、新年の三日間、かわり合って、皇后のお裾は四人で持ち、妃殿下方のお裾は二人で持つ。」

皇后陛下が新年にマント・ド・クールを着用されるようになったのは明治20年(1887年)からである。これに伴って、御裳捧持は明治22年(1889年)より行われることとなった。以来昭和19年(1944年)に至るまで56年間延べ873名の少年たちが栄誉ある御裳捧持を拝命した。

太平洋戦争下では礼装の階級が下がり、大礼服ではなく、通常礼服であるローブ・モンタント(昼の正礼装服)着用で新年の儀式が行われた。ローブ・モンタントには引き裾はないが、例年通り御裳捧持者は任命されて「あたかもあるように」皇后陛下や妃殿下の後ろを歩いたという。

そして、儀式を終えた後に御裳捧持者には記念品としてボンボニエールではなく、銀の時計が下賜されたのである。

御下賜の銀時計 径4センチ・銀製・精工舎製造(学習院大学史料館蔵)
長佐古美奈子

プロフィール

学習院大学史料館学芸員

長佐古美奈子

学習院大学文学部史学科卒業。近代皇族・華族史、美術・文化史。特に美術工芸品を歴史的に読み解くことを専門とする。展覧会の企画・開催多数。「宮廷の雅」展、「有栖川宮・高松宮ゆかりの名品」展、「華ひらく皇室文化-明治宮廷を彩る技と美―」展など。著作は、単著「ボンボニエールと近代皇室文化」(えにし書房、2015年)、共著「華ひらく皇室文化-明治宮廷を彩る技と美―」(青幻舎、2018年)、編著「写真集 明治の記憶」「写真集 近代皇族の記憶―山階宮家三代」「華族画報」(いずれも吉川弘文館)、「絵葉書で読み解く大正時代」(彩流社)など。

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