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2019.9.10

豪邸は博物館だ! ICOM国際委員会が見た建物の保存と活用

旧三井家下鴨別邸

第25回国際博物館会議(ICOM)京都大会5日目となる9月5日、ICOMの各国際委員会が、会場の外で視察や議論をする「オフサイトミーティング」が行われた。歴史的建築物を研究する委員会「DEMHIST(デムヒスト)」のメンバーらは、京都市内の有形文化財に登録された邸宅を訪れ、保存状態や活用方法などを観察した。

参加したのは、宮殿や著名人の生家など「ハウスミュージアム」と呼ばれる世界各国の歴史的建造物の管理者や研究者らで、ヨーロッパ、中東、南北アメリカ、アジアなど幅広い地域からの約40人。ツアーを企画した二条城事務所の学芸員、中谷至宏担当係長は「日本の古い建物は保存が精いっぱいで、調査・研究など博物館機能が弱いのが現状。進んだ海外の関係者の意見を聞いてみたい」と狙いを語る。

三井家の和風豪邸

最初に訪れたのは、重要文化財の旧三井家下鴨別邸(京都市左京区)。1925年に建てられた三井家の旧宅で、もとは別の場所にあったものが移築された。書院造りの居間や、原在正筆の孔雀牡丹くじゃくぼたん図が描かれた杉戸、茶室などがある和風建築だ。

旧三井家下鴨別邸を見学するメンバーら

管理する市観光協会の職員らが「戦後は国有になり家庭裁判所長の官舎だったが、近年、資料を元になるべく原形に忠実な形で修復し、一般公開している」などと説明すると、「詳しい歴史を教えてほしい」「移築はどうやって行ったのか」などの質問が飛んだ。メンバーらは手入れされた庭などを熱心に撮影していた。

サルスベリの花が咲き誇る旧三井家下鴨別邸の日本庭園
学者が住んだ和洋折衷の邸宅

続いて、京都大学に近い北白川エリアの閑静な住宅街に移動し、国登録有形文化財の「喜多源逸邸」(普段は非公開)、隣接する市指定有形文化財の「駒井家住宅」(毎週金、土曜公開、7月3週から8月末、12月3週から2月末まで原則休館)を訪問。それぞれ著名な建築家が手がけた1920年代の京大教授の邸宅だ。

米国人建築家ヴォーリズが手がけた駒井家住宅(撮影協力:公益財団法人日本ナショナルトラスト)

「駒井家住宅」は着物に配慮して段差が低くなっている階段や、ガラス障子、ステンドグラスなど和洋折衷のデザインが美しい。

ガラス越しに庭が見渡せる喜多源逸邸

「喜多源逸邸」では、一枚板で作られた床板に参加者が歓声をあげていた。台湾博物館の林一宏研究員は「非常にぜいたくな作りで驚いた。しつらえなどは台湾の旧宅と似ている部分も多い」と興奮気味に写真を撮影していた。

総理大臣の愛した庭園

最後に訪れたのは、山県有朋の別荘だった「無鄰菴むりんあん」。指定管理者である京都市の造園会社、植彌加藤造園の山田咲・知財管理部長が、収入の約半分が入場料で、リピーターを増やすために無料の会員制度を設け、日本文化を体験するイベントを開いたり、庭園カフェを営業したりといった取り組みを紹介した。

無鄰菴の取り組みを山田さんから聞くメンバーら

「ファンを増やすためにスタッフや来場者との対面のコミュニケーションをとても大切にしてきた」と山田さん。2年間で来場者が5.5万人から8万人に増えたことを報告すると、驚きの声が上がっていた。

遠くに東山が見える無鄰菴の庭

中谷さんは「メンバーは改修の方法や範囲、来場者にどのように見せるかなど、専門家ならではの視点で観察していた。とても有意義だったようだ」と振り返り、「日本でも『ハウスミュージアム』の考え方が広まってほしい」と話していた。

米・マイアミにある大富豪の邸宅だった「ビスカヤ博物館と庭園」を管理するレムコ・ジャンソニウス副マネジャーは、「私たちの施設の来場者は観光客が多くリピーターをどう呼び込むか課題になっていたので、ファン組織を作る取り組みは興味深かった。また条例で建物の高さを制限し、建物や庭の借景を守る工夫もされていて、参考になった」と話していた。

(読売新聞紡ぐプロジェクト事務局 沢野未来)

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