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2019.9.2

博物館の世界大会が日本初開催!ICOMとは?

「第25回国際博物館会議(International Council of Museums、ICOM=アイコム)京都大会」が9月1~7日、京都市左京区の国立京都国際会館などで開かれる。3年に1度の世界大会が日本で開催されるのは初めて。世界の博物館関係者ら約4000人が集い、博物館や美術館の課題や役割などを話し合う。

京都市内で開かれた記者会見の様子。中央が京都大会の大会組織委員長を務める佐々木丞平・京都国立博物館長

ICOMはパリに本部を置く国際的な民間活動団体(NGO)で、博物館の進歩・発展を目的として第2次世界大戦後の1964年に設立された。歴史、美術、科学、自然史など多様な美術館・博物館を対象とし、約140か国・地域の関係者4万人以上が加入している。国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)と協力関係にある。

博物館、美術館にかかわる唯一の国際組織として、世界的な課題と向き合ってきた。国際刑事警察機構(ICPO)と協力し文化財が不法に取引されるのを防いだり、戦争などで危機にさらされた文化財のレッドリストを作成したりしている。開発途上国の専門家の育成も担う。

保存修復、考古学、人類の犯罪など分野別に30の国際委員会などが設けられ、それぞれ独自の活動を展開している。

世界大会では様々な委員会が一堂に会し、共通の課題も話し合う。48年のパリ大会に始まり、第2回以降は3年ごとに開催。アジアでの開催は韓国・ソウル(2004年)、中国・上海(10年)に続き3回目。前回はイタリア・ミラノで開かれた。

博物館の定義についても検討

京都大会では「文化をつなぐミュージアム―伝統を未来へ―」をテーマに、地域の発展や多文化共生、災害時の対応などが議題になる。ICOMの規約に含まれる、博物館の定義についても話し合う。

博物館の定義は、時代に応じ改正されてきた。現在の規約では<社会とその発展に貢献し、研究、教育、楽しみのために資料の保存・展示などを行う非営利の機関>とされている。近年は博物館が社会の問題に積極的に関与することが重視されており、今大会では定義の見直しも検討される。

ICOM開催を記念し、読売新聞の号外が配られた(9月1日、JR京都駅前で)

国立京都国際会館をメイン会場に、基調講演や各国際委員会の会合などがある9月2~4日は一般参加者も聴講できる(有料)。基調講演は建築家・隈研吾さん、ブラジルの写真家セバスチャン・サルガドさん、中国の現代美術家・蔡國強さんの3人が行う。会議では、災害などで被災した際の博物館の対応、アジア美術への理解、マンガ展のあり方なども話し合われる。

5日は博物館訪問などが催され、7日に総会と閉会式が行われる。

(読売新聞大阪文化部 藤本幸大)

◇ICOMに設置された主な国際委員会と活動分野国際委員会

【略称】活動分野
【ICOM-CC】美術品などの保存修復
【ICMEMO】人類の犯罪
【CECA】教育と文化活動
【NATHIST】自然史
【DEMHIST】歴史的建築物
【ICMAH】考古学・歴史
【ICME】民族学
【ICOMAM】武器・軍事史
【UMAC】大学付属の博物館など

世界の流れつかむ絶好の機会 佐々木丞平・大会組織委員長

ICOM京都大会の大会組織委員長を務める佐々木丞平じょうへい ・京都国立博物館長に抱負を聞いた。

日本で初めての開催となる今大会のテーマは「文化をつなぐミュージアム―伝統を未来へ―」です。国境や人種など、あらゆる境界を超えて皆が一緒に文化のことを考える。そういう空間にしたいと考えています。

時代の変化に対応して、ミュージアムがいかに社会に貢献できるか。これがICOMが考えるミュージアムの使命です。社会が変化するならば、その貢献のあり方も変わっていく。大会では、持続可能な社会の実現など、様々な課題について議論されます。

グローバル化の中で、日本のミュージアムも目を大きく見開いて、世界の流れを見なければいけません。一般の参加者も、世界でどんなことが話し合われているのかを知る、いい機会になるでしょう。

文化には過去、現在、未来という時間軸もあります。伝統を守り、未来を考える場所として、1200年の歴史と伝統を持つ京都は、最適の場所です。

日本では明治維新後、廃仏毀釈はいぶつきしゃくが起こるなど伝統や歴史が無視されていった時期がありました。寺社の文化財などを収蔵する京都国立博物館は、そうした状況に危機感を持った人々の力で1897年(明治30年)にできました。そんな歴史も、海外の人に知ってもらいたいと思っています。

アフガニスタンのバーミヤン遺跡では、タリバン政権による破壊がありました。文化にとって無関心は大敵です。150年前の日本も似た状況でした。常に文化に関心を向けてもらう。それがミュージアムの使命だろうと思います。

紛争や人種差別など、政治では解決しにくい課題も、文化というレベルでは互いの垣根を取り払い、話し合うことができます。ミュージアムの資料は膨大な情報源であり、様々な問題解決に役立つはずです。

人間の幸福と世界の平和を実現するため、ミュージアムにしかできないことは何か。皆にそうした問題意識を持ってもらう場になればと願っています。(談)

※読売新聞社は、ICOM京都大会を、最上位プラチナクラスのスポンサーとして協賛します。

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